本研究では、先物取引所による先物契約の創造の決定とその経済厚生への影響を分析し、投資家の持つ情報の分布と取引機会の内容に応じて、以下の結果を得た。 1.投資家が非対称的情報を持つ場合に関し:(1)新しい先物契約を取引所が創造することで期待取引量が減少するための必要条件を明らかにした。(2)新しい先物契約を創造することで実際に期待取引量が減少してしまう場合があることを示した。(3)投資家の事前の意味での厚生水準は取引所が創造する先物契約の種類が多いほど高いわけではないことを示した。(4)取引量を最大化する取引所は必ずしも投資家に最適な種類と数の先物契約を創造せず、先物契約の種類が過小もしくは過大になる可能性があることを示した。 2.投資家は対称的情報を持つが通時的取引が可能である場合に関する従来の研究を発展させ:(1)たとえ投資家の持つ情報が対称的であっても取引量を最大化する取引所は必ずしも投資家に最適な先物契約を創造するわけではないことを示した。(2)先物創造の最適性を動学的枠組みで定義する上での新しい概念を提示した。 1.に関する結果は、特に、「取引量が多いから投資家の役に立っている。」という一見もっともらしい直観が、先物契約の創造の効率性という観点からは必ずしも正しくないことを示す。これから、先物取引所の経済的貢献を評価する際に素朴な直観以上の調査が必要であることが示唆され、この意味で重要な政策的含意を持つ。また、2.に関する結果は、以上の懸念が単に情報の非対称性に依拠するものではなく、動学的取引という現実的な視点が導入されると、先物創造の効率性の評価が益々難しいものとなることを示している。
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