研究概要 |
この研究課題では,税制を考慮にいれた新古典派投資理論に基づく資本コストと限界実効税率の概念を用いて,わが国の法人保有の資産に対する税制の影響を分析した。とくに,数多くの抜本的改革がおこなわれた,1987-1990年の中曽根・竹下税制改革の影響を数量的に評価することを主要な課題とした。 研究で得られた主要な結果は以下の通りである。 (1)利子所得への実効税率は,改革により大きく変化した。改革以前では,80%弱の利子所得が少額貯蓄非課税制度の適用を受け,20%強の利子所得が22%から26%の税率で源泉分離課税の適用を受け,総合的な実効税率は,5%台を中心として推移してきた。改革後は,非課税となる利子所得のシェアは20%弱までに低下して,総合的な実効税率は,15%前後の数値に上昇した。 (2)法人税の分析においては,土地についての実効税率を考慮にいれた本研究の特色が,興味深い観察結果をもたらした。法人税制では,未実現の土地の値上がり益が非課税のために,土地の実効税率はその他の資産に比較して低くなる。保有資産に占める土地の比重が高いことから,法人保有資産全体の限界実効税率は,土地を考慮しないこれまでの推計よりも低くなることがわかった。土地とそれ以外の資産で大きな実効税率の格差が存在するが,89年の法人税改革は土地以外の資産の実効税率を引き下げることによって,この格差を若干引き下げ,全体の実行税率を引き下げた。 (3)法人段階での減税効果と個人段階での増税効果を合わせた総合的な影響では,個人段階の効果がまさり,中曽根・竹下税制改革のもとでは,限界実効税率は上昇した。この点で,わが国の税制は所得課税の方向へ動いたと解釈されるが,これは,課税ベースの選択の観点からは,消費税の導入と整合的ではない。
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