EUでは付加価値税の協調過程を一気に推し進めるのではなく、経過措置を伴う2段階の接近法を採択することにした。域内の取引については仕向地主義を維持し、税関による国境税調整を基本的になくす第一段階から域内の取引については原産地主義に基づいて課税を行い、国境税調整もなくすが、税収の域内諸国間の再配分を行うために清算機関を設け、域外諸国とは仕向地主義に基づく取引を続けるという第二段階へと進むという方向である。 このアプローチによりEU域内および域外において以下のような財政上の変化が現われることが本研究により分かった。 (1)旧システムから経過措置へ移ることにより、域内諸国間においては扱いの変わった消費者の海外からの直接購入の多寡によって最終的な税収の増減が決まることになる。経過措置から最終的な段階へ移行することにより、消費者の直接購入についての扱いは両者で変わらないから、納税義務者間の取引の取り扱いが仕向地主義から原産地主義に変わったことによる税収の変化分だけが現われることになる。15EA02:(2)他方、域内諸国と域外諸国の関係については、域内諸国が諸外諸国に対して仕向地主義を採用したり、制限的原産地主義を採用している限り、税収の配分は変わらない。域内諸国が域外諸国に対しても原産地主義を適用した場合には域外諸国が域内諸国からの輸入品にかかっている付加価値税について、輸入の段階で輸入税を課すか課さないか、また課した場合に輸入品に含まれる付加価値税を控除できるかどうかによって税収配分が異なってくる。 (3)(2)において輸入税を課した場合、付加価値税を控除出来る場合、出来ない場合の両方において域外の業者の取引条件が悪化する。また控除する場合には域外諸国の税収が減ることになる。この場合には、域外諸国が域内諸国と同様に原産地主義を採用する動機が働くことになる。
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