多くの伝統的な金融論の教科書には、ハイパワードマネーの供給量を変化させるとその乗数倍のマネーサプライの変化をもたらすという解説が見られる。しかし、日々金融調節を行っている日本銀行関係者の間にはハイパワードマネーのコントロールは困難であるという考えが根強い。何度も議論されてきたことであるが、従来は平行線に終わることが多く、現在のところ統一の見解には至っていない。しかし、この問題をゲーム論的な枠組みの中で考えることにより議論の食い違いの原因が明らかになるとともに従来は重視されなかった新しい問題点が浮上してきた。 現時点での主な研究成果は以下の通りである。 (1)ハイパワードマネーのコントロールが可能であるという結論と、それが不可能であるという結論とは、共に同一のゲームにおけるナッシュ均衡である。 (2)現行の制度の下ではコントロールが不可能となるナッシュ均衡がサブゲーム完全均衡として成立する可能性が高い。 (3)このような結論が導かれるのは市中銀行による一種のモラルハザードが原因である。 (4)バブル形成期に見られた土地や株式などの一部の価格騰貴に対しては現行の制度の下では対応が困難である。 今回の研究は市中銀行の利潤最大化行動および日銀とのゲームの均衡に関する分析が中心となり、それによって現行制度が抱える問題点はある程度明らかになった。しかし、これらの問題を解決することは容易ではないため今後も引き続き研究する必要がある。
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