「マザ-工場制を利用した熟練の国際移転に関する研究」というテーマで1年間研究を行ってきた。研究の主たる目的は、1994年に行った質問票による調査で、「マザ-工場を利用して国際的な技術移転を行っている」と答えた28社から、10から15社をピックアップし、訪問調査することで、マザ-工場の内実を明らかにすることであった。 様々な形でこの15社に訪問調査を含めて接触し、マザ-工場の各社における位置づけ、マザ-工場での研修の状況について、多くの資料を得ることができた。これらの資料は、実際の研修状況を示す貴重な資料であると考えている。これらの資料によって、当初考えていたマザ-工場の役割(暗黙知を暗黙知のまま海外に伝達するための場を提供しているということと、マザ-工場がマザ-工場内にある暗黙知を形式知化することによって技術の海外移転を支援する側面)が実際に機能しており、マザ-工場が、海外工場に、様々な局面で影響を及ぼしているということが明らかにできると考えている。 しかし、研究を通じて、当初予測していなかったマザ-工場の新たな側面を考慮しなければ、マザ-工場の意義を十分に把握できないことが明らかになった。それは、マザ-工場そのものの役割の変質と、操業年数の長い海外工場のマザ-工場化である。海外工場のマザ-工場化とは、アジア地域における新しい工場の立ち上げにおいて、シンガポールやマレーシアの比較的操業年数の長い工場が核となって、新工場の立ち上げを行っている状況が出現していることである。 私は、この1年間の研究助成によって、新たな研究の方向性を発見することができた。今後、この1年間の研究成果をまとめるとともに、今回発見したテーマについて研究を続けていきたい。最後に、この度の研究助成に対して、感謝の意を表したい。
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