研究概要 |
本研究ではまず,事例研究法に関してこれまで議論されてきているメリットとデメリットを整理した上で,事例研究法に向けられた最も深刻な批判が抽出された.それは,外的妥当性と信頼性という2つの研究評価基準を事例研究法が満たすことが難しいという批判である.この批判に対して事例研究法は原理的に反論することが困難であることは比較的自明なことであるので,本研究では、そもそもこの2つの評価基準自体の妥当性を批判的に検討した.この結果,この2つの基準がそもそも,法則定立的な研究を是とする立場によって重要視されているのであること,またその法則定立的な研究が十分に意義があるのは社会現象に安定的な規則性が存在する場合であることを本研究では明らかにした.さらに,社会現象に安定的な規則性が存在するのは,社会現象を生み出す作為者たちの従事するゲームに支配均衡が存在する場合として近似することが可能であることを簡単なゲーム理論の応用によって明らかにした.このような道筋をたどって事例研究法に対して向けられた深刻な批判が的を射ていないものであることが明確になり,事例研究法が決して問題のある研究法ではないことが明らかとなった.しかし,法則定立が経営戦略論にとって困難であるのだとすれば,経営戦略論は何を目指すべきであるのか,この問いに対して,本研究では,意図の上では合理的な行為者たちの相互作用から生み出される<意図せざる結果>を探究することが最も重要な社会科学上の研究方針であり,その探究には,(a)行為者たちの間の相互依存関係の解明と(b)行為者たちの意図の了解作業と(c)社会現象の精密な記述とが必要であることを明らかにした.
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