平成8年度には私の研究は主に三つの方面において進展を見ました: 1.グロタンディーク予想関係:平成7年の秋に証明した局所体上の双曲的曲線のグロタンディーク予想の同型版を準同型版というずっと強い形のものに改良することが出来た。カギとなる観察は曲線の基本群のマルツェフ完備化へのガロアの作用に関するあるごく初等的な計算だが、いったんこの準同型版が確立されると、同型版と違って様々な「よい」関手的な性質を持つため、次元に関する帰納法を通して高次元の対象への応用が可能となる.今まで出来ている例を挙げると、高次元の関数体のグロタンディーク予想の準同型版とある種の双曲的局面のグロタンディーク予想の同型版が有る。これらの結果を書き上げた論文は現在投稿中である。更に、応用というわけではないが、局所体に関するグロタンディーク予想の類似(=同型版)も同様な手法によって証明し、論文(研究発表欄の[2])も書き上げた。 2.一般化通常理論:論文[1]で発見した曲線のモジュライのp進的一意化論を一般化して出版予定の図書(タイトル:Foundations of p-adic Teichmuller Theory)に書き上げた。この研究は平成6年から継続して行なっているわけだが、やっと今頃になって完成のめどがたち、出版会社からも出版の約束を取り付けた。特に8年度に書き上げた部分は(1)巾零固有束の空間の生成点の構造を完全に決定する「p進タイヒミューラー理論の組合せ論化理論」と、(2)有限素点における新しい理論と無限素点における古典的な理論の関係をより精密に理解することが出来たのでそれに関する入門的な章、である。 3.双曲的曲線の「対応」(correspondence)について:出張で一カ月オランダで過ごす機会を持ち、その際、Frans Oort氏に聞かれた質問に答える形で双曲的曲線の「対応」(correspondence)の有限牲に関する定理を証明し、論文[3]に書き上げた。
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