研究概要 |
本研究の目的は,保型L関数の臨界線上の絶対値に関する古典的な評価(凸境界)を改善することにより,量子エルゴード性を証明することであった.私は,前年度の研究「量子エルゴード性と,その応用としての測地線定理の誤差項の改善」において,量子エルゴード性が保型L関数の凸境界の改善と同値であることを証明した.量子エルゴード性は最新の概念であるが、凸境界の改善は古くから重要とされてきたものであり、これらの間に関係が成り立ったことで,凸境界の改善の重要性がこれまで以上に大きなものと認識されるに至った. そこで,本研究ではL関数の凸境界を改善する一般的な原理を研究し,これまでに知られている個々の結果に別証明を与えた.これまで,凸境界の改善は1次元,2次元正則,2次元非正則,の各場合にそれぞれ証明されていたが,それらの証明は,その都度登場する特殊関数の性質を活用して証明するものであった.ところが,そうした場当たり的な証明では,それ以上一般の場合に凸境界の改善ができない.そこで本研究では,特殊関数の性質を一切用いることなく,一般的な設定のみから凸境界を改善する方法を開発した.それは,L関数の関数等式と積分変換のみによる証明である.それにより,問題となる級数(指数和)に関し,これまでに知られていなかった不等式を得た.この不等式が本研究の主結果(主定理)である.そして,その不等式が応用可能であるような全ての場合に,凸境界の改善すなわち量子エルゴード性を統一的に証明することができる.現在までのところ,その証明は2次元以下の全ての場合に有効で,個々の結果を全て統一できることがわかった.この方法で3次元以上でも一般に証明が完成されるべきであるが,それについては今後も引き続き取り組んで行きたい.
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