研究概要 |
従来の数値相対論の方法であるADM形式と比較して,Ashtekar形式の特長の一つに変数の逆数を含まないという利点がある。この利点により縮退点通過の計算が可能になるのではないかと考えた。解析的な研究の結果,縮退点を直接通過しようとする方法では,変数またはその微分の一部が必ず発散することが分かった。そこで,変数を一時的に複素に拡張することで,縮退点を回避しながら計算し,また実領域に戻ってくる方法を考案した。これらについて縮退点通過の判定条件を設定し,実際に数値計算を試みた。その結果,縮退点を直接通過しようとする方法ではやはり計算は適切に機能しないことが分かった。そして,複素拡張による縮退点回避の方法では,その回避の仕方により適切に機能する場合としない場合が混在して存在することが確かめられた。この計算により,Ashtekar形式と複素拡張による縮退点回避のテクニックを組み合わせた方法により,縮退点通過が可能だと結論づけられる。解が離散的になるのは,本来片側にしか課さない境界条件を両側に課したことが原因であろう。どのような回避の仕方の時に計算が適切に機能するかは現在調査検討中である。また同様の試みをADM形式を使って行ってみたところ,解の分布に若干の違いが認められるが,Ashtekar形式による場合と概ね同様に通過が成功するものが発見された。これらの結果より,ここでの縮退点通過のポイントは複素多様体に拡張利用した縮退点回避だと結論づけられる。このような結果をまとめる論文を投稿準備中であるが,離散的に存在する解について,固有値問題特有の保存チャージを見つけることが出来ればさらに価値あるものになると思うので,研究中である。
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