発展方程式を時間変数について差分化し、差分方程式を変分法によって解く。更に、差分幅を細かくしたときの極限で、元の発展方程式の解を構成する。この方法は、チェコのRektorysや、慶應義塾大の菊池などによって考案された。方程式が、放物型偏微分方程式のときは、対応する楕円型偏微分方法式に付随する汎関数の勾配流の離散化になっているため、「離散的勾配流」による方法と呼ばれている。この方法は、放物型偏微的方程式にのみ適用されるのではなく、さまざまな発展方程式(偏微分方程式に限らない)に有効で、イタリアのDe Giorgiはminimizing movementと呼んだ。邦訳すれば、「最小化運動」と呼ぶべきものである。 ここでは、この方法を用いて、半線形双曲型偏微分方程式系やナヴィア・ストークス方程式について研究した。前者に対しては、摩擦項を持つ方程式系の弱解の時間大域的存在と、減衰を示した。また、非柱状領域における弱解の時間大域的存在を示すのに有効である事を明らかにした。このような問題に対しては、従来の方法では、多くの場合任意の時刻における領域が初期領域と微分同相である事を仮定するが、ここでは、領域が増大するという仮定の下で考察し、同相である必要はない。ナヴィア・ストークス方程式に対しては、多様体上の方程式の弱解の時間大域的存在と、分数冪時間微分に相当するものの評価を示し、エネルギー不等式の精密化を行った。エネルギー不等式の精密化は、この方法から得られる独自のもので、半線形双曲型偏微分方程式系についても同様な精密化が可能である。
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