研究概要 |
場の量子論において,2次元空間とより高い次元の空間との際だった相違は,グリーン関数が対数関数的に振る舞い,その結果wick積で記述される汎関数が豊富に存在することにある。対数関数的特異性の根元は2次元空間のもつ等角構造にある。我々の目的は等角構造がwick積をどのように規定するかを明らかにすることにあった。2次元トーラス上の等角構造を上半平面でパラメータ付けする例を考察する。確率場を非同次コ-シ-リーマン方程式の解として定める。上半平面への群SL_2(Z)の作用のもと解はモデュラー共変性を持つ。この性質が多重相関関数をトーラス上の有理点で評価したものの保型性を導く。楕円関数を用いた解の表示から,保型性を壊さずにべき乗に相当する汎関数renormalized productが自然に構成され,表現できる保型型式のクラスを広げることができる。この手順はポァッソン点過程に基づく多重ウィーナー積分をpartitionのタイプに対応して分解するときのものによく似ている。この点から観ても上の汎関数をwick積のアナログといえるはずである。確率場のユークリッド自由場への収束が,同時にrenormalized productのwick積への収束を導くことがこれの傍証となる。これまでのところ,レビー速度の平均が0であるような各点独立なポァッソン点過程をコ-シ-リーマン方程式の可解性を満たすファイバー上での条件を付けて得られるものを非同次項としている場合に,粒子密度が大きい極限でwick積へ収束することが示せた。コ-シ-リーマン方程式の可解条件が示されるべき中心極限定理を確率0の薄い集合上で展開させる点は典型的な状況と相違するが,ポァッソン点過程のレビー測度が適度な密度を持てば技術的困難はそれほど大きくないことがわかっている。
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