研究概要 |
当初の「研究実施計画」で述べた離散モデルとして,必ずしも可逆性を持たない格子上の無限粒子系モデルを考え,そこでの平衡状態への接近を特徴づける汎関数の1つであるエントロピー生成について詳しく調べた.本研究によって得られたような描像は,多くの系に対して成り立つと考えられるが,ここでは最も多く調べられているモデルの1つであるGlauberダイナミクスについて述べる. それは正方格子上の配置空間における時間発展であり,jump型Markov過程として記述される.jump ratesに対しては,連続性 ・ 一様に正であること ・ Iocal functions にかなり近いこと,といった条件が課される.このプロセスの定常分布に関する相対エントロピーを有界領域毎に考え,その時間微分の符号を替えた物としてエントロピー生成は定義される. Kunschは,空間移動不変性とregularityの仮定の下で,エントロピー生成の無限体積極限(「単位体積あたりのエントロピー生成」と呼びσで表す)が存在することを示した.我々はこれのidentificationとして,相対エントロピーを用いた具体的な表示を得た. これの応用として,次が示された. ・単位体積あたりのエントロピー生成のaffine性. ・非平衡測度の準不変性. 一方,Dai Pra は定常分布を特徴づける興味深い汎関数(Iで表す)を,プロセスの時空大偏差原理からのcontractionとして得ている.これのidentificationとしては,形式的な考察により次が予想されるが、その証明は未解決である. 予想.Dai Praの汎関数Iは,σに対して我々が導いた表示において相対エントロピーをHellinger距離の2乗で置き換えたものの定数倍に等しい.
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