研究概要 |
ランダム行列の理論は,カオス的な量子系のエネルギー準位分布を統計的に記述するのに有効である.いままでよく調べられてきたのは,準位数,すなわちランダム行列の次元が無限個となる極限において,準位が,一つの連結な領域内に連続に分布するような場合である.しかし,ランダム行列変数に対する一般的な確率密度をとった時,準位は,非連結な複数の領域に分布しうる 私は,くりこみ群の方法を用いて一つの模型を解析し,確率密度の変化に応じてこの非連結な領域の個数が変化する際の挙動を明らかにした.ランダム行列理論におけるくりこみ群の方法は,行列変数の次元を変化させた場合の,確率密度の変化を追跡して微分方程式を立てるというものである. 模型としては,逆符号のガウス項と4乗項がある2重底ポテンシャルを持つものを考えた.4乗項の係数の大きいとき,領域は1つで,十分小さい時には2つになる.1つから2つに変化する際,自由エネルギーの3階微分が不連続になっていることを示した.またくりこみ群方程式を積分して,自由エネルギーを4乗項の係数の関数として求めた. また,準位の分布する領域が2つである場合の振舞いを支配する,くりこみ群の固定点を発見した.最近,2準位相関関数の長距離での振舞いの普遍類が,準位の分布する領域の個数により特徴づけられているという指摘がある.上で述べた固定点の存在は,この普遍類が,くりこみ群の異なる固定点とその回りでの臨界的な振舞いにより決定されているという予想を支持する.
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