研究概要 |
本研究では,放射線医学総合研究所のHIMACからの重イオンビームをもちいて高スピン核異性体の探査実験をおこない,高エネルギー反応における角運動量移行,核異性体生成のメカニズムについての知見を得ることを目指している。今年度は,実験手法の改良を重ね,これまで困難であった高エネルギー核反応によるインビームガンマ線測定が可能となる実験条件を見いだした。当初問題となった高エネルギーガンマ線による検出器へのバックグラウンドは,ビーム調整の手法を工夫すること,新しいタイプのGe検出器を用いることなどで大幅に改善された。ビームダンプで発生する中性子に起因する猛烈なバックグラウンドは厚い標的と弱いビーム強度を組み合わせることで抑えることが可能となった。181Ta標的と12Cビームの組み合わせで実験をおこないPCとCAMACを組み合わせたデータ収集/解析システムをもちいて,実験データの収集およびデータ解析をおこなった。解析の結果,178Hf核のK核異性体の崩壊にともなう,基底回転バンドのガンマ線カスケードが観測された。このK核異性体は178Ta核のスピン7の核異性体のベータ崩壊により生成されており,この反応において7から8程度の角運動量の状態が相当の強度で生成されることが明らかとなった。中性子数83の同調核(質量数150近傍)に見られる高スピン核異性体からのガンマ線を確認することはできなかったものの,この近傍の短寿命核種あるいは核異性体が生成された可能性を示唆するデータを得ることができた。より精度の良い測定をおこなうことでさらに高スピンの核異性体が観測できることが期待される。
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