縮退した電子気体のなかで、ニュートリノがWと荷電レプトンに偏極する過程で得る電磁気的な性質の計算を明らかにした。特にその計算をニュートリノの磁気双極子に応用して、縮退した電子気体中で非相対論的に運動するニュートリノについて、真空中の量子補正で得られる値に比べて、電子のフェルミ運動量pとニュートリノの質量mを用いて(8p/3m)倍の磁気双極子が生じることを明らかにした。また相対論的に運動するニュートリノについてはヘリシティを保存する過程ではあるが、フレバ-を交換する過程が真空中よりも起こりやすくなっていることを示した。この結果はProgress of Theoretical Physicsに出版した。 電磁気的な性質の応用として、電子気体中のニュートリノの原子核によるクーロン弾性散乱を考え、特にCP非保存の可能性を考察した。このような過程があるとすると星の内部での重元素合成などの応用で興味深い。この点について詳しく調べた結果、真空中でも生じる得る偏極過程と電子気体中で固有の偏極過程の干渉を考えることで、実際にCP非保存過程が可能であることを示した。しかし残念なことにその大きさは弾性散乱を考える限り運動学的に大きく抑制されることも同時にわかった。この研究については1996年物理学会秋の分化会で発表した。 標準模型の量子異常によるレプトン数の非保存過程(この過程はニュートリノのフレーバーが変化する過程も含む)の散乱振幅の計算の改良を視野において、経路積分の半古典近似の改良を研究した。具体的には量子力学での非対称二重井戸を考え、そこでのトンネル効果によって生じ得る基底状態のエネルギーの変化を計算した。従来の半古典近似を用いた計算では誤った複素数のエネルギーが得られるが、我々の提案する固有谷線法を用いると正しく実数の値が得られることを示した。これは現在、論文にまとめている。
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