ナトリウム・水素・グラファイト層間化合物(NaH-GIC)に対して、第一原理からのセルフコンシステントなバンド計算を行い、その分散関係と状態密度(DOS)、partial DOSを求めた。手法は、密度汎関数法に基づく数値規定を用いたLCAO法で、局所密度近似の範囲内で行った。興味がもたれる点は、この化合物が、(水素が2次元的な金属バンドを形成することが実験と理論の両面から示されている)カリウム-GIC (KH-GIC)とどのように異なる電子構造をもつかである。NaH-GIC結晶の構造に関しては、KH-GICの場合と同様に、HとNaがH-Na-Hという三重原子層を形成することが実験的に明らかにされているが、その面内構造ははっきりとは知られていない。そこで、KH-GICの計算で用いた結晶構造モデル(水素層内でHは原子状で存在しているというモデル)を用いて計算を行った。KH-GICの結晶構造モデルをそのまま用いた理由は、KH-GICとNaH-GICの電子物性の違いは単にK原子とNa原子の電子状態の違いに起因するものであろうと予想されたからである。その結果、水素の1s状態がフェルミ順位を横切り、KH-GICの時と同様に2次元的な金属バンドを形成しているという結果が得られた。ところが、この結果は、NMR等の実験から提唱されている電子構造の描像とは一致していない。現時点では、この不一致は計算に用いた結晶構造モデルによるものと考えられる。最近の実験からは、結晶中に水素分子と水素原子が混在しているという説もあり、そのような状況も考慮したより複雑な構造モデルに対するバンド計算も実行して検討してみる必要がある。従って、今後はそれらのモデルに対してバンド計算を行う予定であるが、構造および電子物性に関する詳細な実験が期待される。
|