強磁性遷移金属クラスターは、新たな微視的磁性材料として応用が期待される。本研究は、遷移金属元素からなるクラスターの電子状態を局所密度汎関数法を用いて計算することにより、その磁気的性質を明らかにし、磁性材料への応用に対する基礎的な知見を得ることを目的とする。 本研究では、原子数が10-50程度のFe、Cr単相および2相クラスターおよびCo単相クラスターの電子状態を計算し、磁気的性質について以下のことを明らかにした。 FeおよびCo単相クラスター:Feクラスターでは、各原子における磁気モーメントは、強磁性的に配向し磁気モーメントの大きさは表面相で最大、第2層で最小になる。原子間距離を減少させたとき、磁気モーメントの大きさは減少傾向にあるが、変化の程度は大きくなく、磁気モーメントは原子間距離の変化に対して敏感でない。CoクラスターについてもFeクラスターと同様の磁気的性質が得られた。 Cr単相クラスター:Crクラスターでは、各原子における磁気モーメントは、反強磁性的配向を示し、磁気モーメントの大きさは、各原子における配意数に大きく依存し、表面相で最大となる。また、原子間距離を減少させたとき、磁気モーメントの大きさは急激に減少し非磁性となる。 Fe-Cr2相クラスター:表面Cr内部にFeを配置したFe-Crクラスターでは、FeとCrの磁気モーメントは反強磁性的に配向し、表面相のCrは大きな磁気モーメントをもつ。Fe相ではCrと接する層の磁気モーメントは、Fe単相クラスターの場合とほぼ同じ、第2層では減少する。これらは2相金属表面における実験結果と一致する。
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