シリコンに重水素あるいはヘリウムを打ち込んだ結果、ヘリウム照射の場合にのみ、照射によって形成された非晶質層中に大きさ数ナノメートルのバブルの形成が見て取れた。このことからバブルの生成において注入するガスの活性・不活性の差が大きく影響していることが確認できた。しかしシリコンの場合、バブルは非晶質領域に生成するため、半導体中のバブル表面での再配列構造とそれに関連するバブルの挙動を研究する目的にそぐわない。一方ガリウム砒素の場合には、ヘリウム照射によって結晶層中にバブルの形成が見られた。その解析の結果以上のことが明らかになった。 1、比較的低温度(250℃)のアニールにおいても直径約1μmの平板状の大きなバブルが生成する。 2、平板状のバブルはガリウム砒素結晶の容易劈開面である{110}面上ではなく、{111}面上に生成する。 3、等傾角干渉模様とイメージングプレートを用いた電子線回折図形の測定と計算機によるシミュレーションによる解析の結果、バブル表面は表面再構成していない2つの対面する湾曲した{111}面によって構成されていることが分かった。 バブル中のヘリウムの存在を確認するため、電子エネルギー損失分光法によるバブルの測定を行ったが、現在のところマトリックスからの強い信号に妨害されて成功していない。しかし、等傾角干渉模様から分かる対面する湾曲した{111}面の存在は、バブル中の高圧ガスの存在を強く示唆している。バブルの動的挙動に関する表面再構成の影響に関しては今回は明らかにすることができず、今後の課題である。
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