本研究の目標は、現有のラマン分光装置および超伝導磁石を整備し、強磁場下ラマン分光によって重い電子系化合物の研究を行うことであった。まずコンピューター及び光学部品を購入して、ラマン分光装置を整備した。ゼロ磁場でのラマン散乱測定をいくつかの標準試料について行ったが、信号強度が非常に弱いこと、及び200cm^<-1>以下の、迷光除去能力が十分ではないことが判明した。これは分光器の性能そのものが原因であり、集光効率の低い超電導磁石内での測定に十分な信号強度を得られるような短期的改良は不可能であった。そこで、ラマン信号が強い絶縁体あるいは半導体物質で、かつ200cm^<-1>以上の領域に信号がみられるような化合物のゼロ磁場での測定を目指すことにし、重い電子系化合物の中でも特にSmTeに注目した。この物質が常温・常圧では半導体であるが、圧力を加えることによって金属に転移し、かつ価数揺動を示すことが磁化測定などで報告されている。まず室温においてSmTeのラマンスペクトルを測定したところ、「結晶場励起」によると思われる複数のピークを500cm^<-1>以上のエネルギー領域に観測した。これは局在スピンを持つSm^<2+>イオンの(4f)^6多重項間の遷移に対応する信号であり、今後その振る舞いを詳しく研究することによってSmイオンの価数揺動に関する情報が得られると考えられる。すなわち、金属相に転移すると共にSm^<2+>(4f^6)とSm^<3+>(4f^5)の間に価数揺動がおき、結晶場励起のラマンピークの位置・強度も変化し、その変化から価数揺動の度合いが見積もれるはずである。これまでSmTeに関してラマン分光によるこのような研究は行われておらず、これまでにない新たな情報が得られる可能性が高い。本来は磁場中の測定を目標にしていたが、以上のような経過より、高圧におけるSmTeのラマン分光を併せて行って行く予定である。
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