全トランス-β-カロテン単結晶のν_1(C=C伸縮振動)ラマン線の強度を励起光エネルギーの関数として測定することにより共鳴ラマン励起プロファイルを作成した。得られたプロファイルには、振動構造に起因すると考えられる3本のピークが観測された。これらのピークの内、最低のエネルギーを与える14500cm^<-1>のピークが、そのエネルギーから判断してS_1(2^1A_g)←S_0(^1A_g)遷移のゼロフォノン線に対応すると推定された。同結晶のa軸及びb軸に平行に励起して測定した共鳴ラマン励起プロファイルには、許容遷移(^1B_u←^1A_g遷移)の場合に観測されるような顕著な異方性は観測されなかった。S_1(2^1A_g)←S_0(^1A_g)遷移への帰属を確立するために、溶液中の分子に対する蛍光測定によりS_1(2^1A_g)準血エネルギーが決定されている全トランス-スフェロイデンを試料に選び、その粉末結晶について同様の測定を行った。得られた共鳴ラマン励起プロファイルにはβ-カロテンの場合と同様に3本のピークが観測された。この内、最低のエネルギーを与える14600cm^<-1>のピークは、CS_2溶液中における全トランス-スフェロイデンについて報告されているS_1(2^1A_g)エネルギーの値(14600cm^<-1>)と良い一致を示した。すなわち、上述の結果は(1)カロテノイド結晶の共鳴ラマン励起プロファイルを測定することによりS_1(2^1A_g)準位エネルギーの決定が可能であること、および(2)S_1(2^1A_g)準位エネルギーは結晶中における分子間相互作用効果の影響を殆ど受けないことを示している。
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