研究概要 |
今年度スペクトロメーターの整備が遅れたためにNMR測定は行えなかった。予備実験として、今年度までに一次元細孔を有する次の二つの物質に物理吸着した酸素分子の磁気測定、比熱測定を行った。 1.Cu trans-1,4-cyclohexanedicarboxylic acid 低吸着量で帯磁率は30K近傍にショットキー型のピークを示す。磁化過程はH=35Tを臨界磁場とする一段のメタマグ的転移後2μ_B/O_2に飽和する。これらの結果はS=1/2反強磁性ダイマーモデルで説明でき、一重項酸素の出現を示唆すると考えている。双方から求められるg-は値はそれぞれg=2.4、g=2.0と大きく食い違っているが、吸着状態が温度変化し高温では通常の三重項状態が支配的になると考えている。吸着量を大きくするとダイマーモデルからのズレがみられるが、ダイマー間の相互作用か吸着状態のランダムネスによるものと考えている。比熱測定では異常に大きな磁気比熱が観測された。一重項酸素の出現に関連しているのかもしれない。 この異常な吸着状態を明らかにするために、NMRを行い微視的に酸素の磁性状態を研究することはたいへん興味深く今後精力的に行う予定である。 2.ゼオライト(ZSM-23) 磁化過程の測定では一次元反強磁性体に特徴的な直線的変化が得られているが、S=1の系で期待されるHaldaneギャップは観測されていない。帯磁率の温度変化では30K近傍にわずかな折れ曲がりが観測されるが低温領域での常磁性的な増大が大きく、その温度依存性を議論するには至っていない。比熱は期待される短距離秩序を示すブロードなピークが観測された。 それらの結果は1.の系と大きく異なり通常の三重項酸素状態で説明できるものである。この系ではゼオライトの陽イオンがランダムに存在しているため酸素が一様な鎖を形成せず、相互作用がランダムに分布していると考えている。
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