本研究では、加圧による同一試料での分子間相互作用の制御を通して、有機ラジカル磁性体の磁気状態・相転移現象におよぼされる影響から分子磁性の機構に関する知見を得ることを目的として、有機分子の磁性を極低温・加圧下・磁場下における熱測定・磁気測定を基に検討した。 まず、代表的な有機強磁性体p-NPNNにおいて圧力下で強磁性転移温度(Curie温度)が低下することを見出した。このCurie温度の低下は局在スピン系ではほとんど例がなく、従来調べられてきた反強磁性体の場合と全く逆の結果である。有機分子の強磁性相互作用の機構について理論的には分子軌道法を基にした計算がなされてきたが、上の実験結果は再検討すべき点が残されていることを指摘した。これらの点をふまえ、Curie温度の低下が分子間に働く強磁性および反強磁性的な交換相互作用の競合により説明できる事を指摘した[1]。 また、フェルダジル基を母体とするラジカル結晶p-CDTVの低温における比熱・帯磁率の測定から、この物質がS=1/2一次元Heisenberg強磁性の良いモデル物質である事がわかり、三次元的な相関の寄与を補正した上でS=1/2一次元Heisenberg強磁性の臨界指数γが2であることを実験的に示した[2]。p-CDTVの低温における秩序状態は未だ明確でないが、加圧により磁気転移温度が上昇することから反強磁性ではないかという指摘が為されている。
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