研究概要 |
擬一次元有機伝導体(TMTSF)_2ClO_4においてみられる磁場誘起スピン密度波(FISDW)相の難解な温度磁場相図を理解するために,ClO_4のanion odering gapを考慮したモデルエネルギーバンドを考え,平均場近似に基づき,磁場存在下でのスピン密度波状態をセルフコンシステントに求めた。 (TMTSF)_2ClO_4のFISDW高磁場相は,McKernanらの実験によると,従来考えられていた相図と異なり,20T以上の磁場でより高温側(〜5.5K)でFISDW相転移があり,また以前の相転移線付近(〜3.5K)でFISDW相内の2度目の相転移を持つ。彼等の考察によるとこの現象は,第一の相転移で,ClO_4のanion oderingによって生じた2組の擬一次元的なFermi面のうちの一方に,Q=(2k_F,0)近傍の2種類のnesting vectorのうちの一方によってgapが生じ,もう一方のFermi面が金属的なまま残ると考えることによって説明できる(k_Fは擬一次元的なFermi波数)。 本研究では,FISDW現象を記述する標準的なモデルである,異方的な2次元HubbardモデルにPeierls substitutionによって磁場を導入したHamiltonianに,新たにanion oderingによる周期ポテンシャルを外場として取り入れ,これによって生じた2枚のエネルギーバンドを簡単なモデルバンドで近似し,この各々の間の相互作用を平均場近似によって取り扱うことによって,絶対零度においてセルフコンシステントなFISDW状態をBCS的な近似の範囲内で解析的に求めた。 これによって,(1)2組のFermi面の一方を残すようなnestingに対応するスピン密度波状態は確かにセルフコンシステントに存在し,このようなnestigに対して,(2)高磁場では,提案されているnesting vectorのうち,Q=(2k_F,π/2)近傍のものが最も秩序化が発達すること,(3)カスケード現象と呼ばれる逐次相転移が観測されている低磁場においても,従来考えられていたものと異なるnestingが,より秩序化を促進する可能性があることを明らかにした。
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