地球内部のマントルでの対流運動の上下方向の流れが、相転移面によって遮られるかどうかは、地球の熱的、化学的進化を考える上で非常に重要な制約条件を与えるものである。最近の地震波を使ったマントルのトモグラフィーの結果を見ると、マントル対流の下降流である海洋リソスフェアの沈み込みが、日本やトンガなどでは650kmの相転移の深さで遮られ、マリアナなどでは相転移面を突き抜けているというように、マントル対流と相転移との相互作用に地域性があることが解ってきている。本研究では、沈み込む海洋リソスフェアにかかる温度差による下向きの力(重力)と、相転移のクラペイロンカーブの傾きに由来する(正または負の)浮力を、簡単な一次元の温度構造推定のモデルを用いて計算し、探さ650km付近の相転移面にかかる力を推定した。 その結果、探さ650km付近の相転移面にかかる力が大きい地域は、地震波トモグラフィーで沈み込むリソスフェアがこの相転移面を突き抜けている地域と一致し、またこの力が小さい地域では、沈み込むリソスフェアがこの相転移面を突き抜けていないという結果が得られた。今まで、この相転移面での沈み込むリソスフェアの挙動は、背弧海盆の拡大や熱対流のダイナミクスなどを用いて説明されてきたが、それらでは必ずしも多くの沈み込み帯のデータを説明することは出来なかった。今回のこの結果は、この相転移面での単純な力学によって、ほとんどの沈み込み帯のデータが説明できることを示しており、この要因が沈み込むリソスフェアの挙動を支配していることを強く示唆している。
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