研究概要 |
島根・鳥取両県にまたがる中海は,湖面積97.7km^2の,汽水湖としてはサロマ湖に次ぐ大きさをもつ海跡湖である.中海の堆積物には過去約1万年間にわたる環境変化が記録されている.本研究では,このうち有機物の記録に着目し,プランクトン起源有機炭素および陸起源有機炭素の埋積速度と温暖・冷涼気候との関係について検討した。 試料には,中海湖心から採取された20mの泥質堆積物コアを用いた.試料は,乾燥後,1-MHCl処理をして全有機炭素濃度・前窒素濃度を求めた.また,過酸化水素水で有機物を分解し,無機窒素を測定して前窒素との差し引きから有機窒素濃度を求めた.年代値は,約1m毎に採取された貝試料の^<14>C濃度を,ベンゼン-液体シンチレーション法およびAMS(タンデトロン加速器)法によって測定した. 泥質堆積物柱状試料の有機炭素濃度は,約6,000年前前後の温暖期に約1%と低く,約2,500年前の冷涼期に約3%と高い値を示し,その間は漸移的な変化傾向を示した.このプロファイルは,中海-宍道湖水系の他地点の堆積物柱状試料でも同様に見られることから,この水系全体の環境変化を反映しているものと考えられる.また,中海の堆積速度が温暖期に高かったことは,降水が多かったことを示唆している.一方,有機炭素埋積速度でみると,約6,000年前前後の温暖期に20〜30gC/m^2yと逆に高く,約2,500年前の冷涼期に約10gC/m^2yと低い値を示し,その内のプランクトン起源有機炭素および陸起源有機炭素の割合は,同温暖期に50:50,同冷涼期に75:25と推定された. これらのことは,次のような気候と有機炭素埋積との関係を示している.すなわち,「中海では,温暖期に降水が多く,河川からは多くの砕屑物・陸源有機物が供給された.同時に河川から供給された窒素やリン等の栄養塩や基礎生産性を高めた.この時の有機炭素濃度は,砕屑物によるプランクトン有機物の希釈により,低くなった.一方,冷涼期には,降雨が少なく,河川からの砕屑物・陸源有機物の供給量は低下し,基礎生産性が低くなった.しかし,砕屑物によるプランクトン有機物の希釈が少なくなり,有機炭素濃度は高くなった.」
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