研究概要 |
本研究では,主にレーザーアブレーションマイクロプローブ誘導結合プラズマ質量分析計(LAM-ICP-MS)による超微量元素の定量分析法の開発が行われた.筑波大学のLAM-ICP-MSでは,試料に照射するレーザーの波長として,従来の赤外線(1064nm)の代りに高調波を用いた紫外線(266nm)を採用した.この採用により,赤外線の吸収がないため分析不可能であった透明な物質(ガラス,石英,方解石,ダイヤモンド)も容易に分析することが可能になり,更に,波長が短いことからビーム径も5μm前後まで絞れるようになった. 紫外線レーザーでは,全ての珪酸塩が分析できるので,測定の汎用性が広がったといえる.ビーム径の微小化は分析の空間分解能を高めるが,一方で,質量分析部に送られる試料量も少量となるので,これまで以上に高い分析感度が要求されるようになった.分析感度は,濃度あたりの強度(感度)とバックグラウンドの高さ(検出限界)によって決定される.感度については,白金コーンやサファイヤインジェクターの採用,コーンとインターフェース間のマニュアル調節などにより導入当初に比べ約4倍感度を高めることに成功した.実際,溶液による測定では,現在,Rh10ppb溶液に対して160,0000ctsの強度を得ることが可能になっている.また,バックグラウンドについては,大気の流入を抑えることで,導入当初の約1/4に抑えることができ,希土類元素のバックグラウンドは80cts以下になっている.これらのことから,ビーム径40μmの測定条件で,希土類元素の検出限界も約40ppbまで改善された.また,珪酸塩ガラスNBS-612を標準物質とすれば,珪酸塩中の殆どの微量元素を相対誤差10%以下で定量できることが分かった。 硫化物については,安定なレーザーサンプリングが難しいこと,適切な標準物質がないことから,これまで,局所分析の成功例は報告されていない.今後,レーザーの波長,パルス波の設定条件,エネルギーなどを変えながら,硫化物のレーザーサンプリングの最適条件を探る予定である.また,標準試料については,粉末の標準試料をプレスしたものを測定したが,固結の度合が均質でないために試料が安定にサンプリングされず,現状のままではうまく行かないことが分かった.今後,加熱しながら圧縮するなどの処理を検討したい.
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