研究概要 |
本研究では,3GPa-850℃から,8GPa-850℃の範囲で,金カプセルのなかにスラブ相当物質と,マントル相当物質(カンラン石)を封入し,高圧・高温にして,スラブ相当物質を脱水させた.その後,金カプセルを取り出し,外側を洗浄した後,清浄なピンセットでカプセルを破き,スラブ相当物質とマントル相当物質をそれぞれ別々に取り出した.一回の実験で,マントル相当物質約3mgと,スラブ相当物質約6mgが得られた. ICP質量分析計(ICP-MS)により,この中の希土類元素,Li,Sr,Rb,Y,Cs,Ba,U,Th,Pbを定量した.実験後のマントル相当物質は,出発物質のスラブ相当物質とマントル相当物質の単純なミキシングとは全く異なる微量元素組成を持つことを見いだした.また,この組成は,カンラン石だけを封入した実験生成物(ブランク実験生成物)の分析結果とも異なっていた。すなわち,スラブ物質は,脱水反応と共に,Cs,Rb,Ba,PbやLREE(La,Ce)が枯渇した。またHREE(Er,Tm,Yb,Lu,Y等)は全く変化しなかった。 この結果は,沈み込むスラブが,脱水反応によって,より低いLREE/HREE,及び,高いU/Pb比を有することを意味する。これは,沈み込んだスラブが,マントル内に導入された後,海洋島玄武岩の一部であるHIMUマグマの起源物質(海洋島玄武岩や中央海嶺玄武岩のマグマソース全体が示す鉛同位体比の一般的傾向よりも高いU/Pb【μ】を長時間保持していたと考えられるマグマソース)になりうることを示す。 また,スラブから放出される流体相は、アルカリ金属元素,Pb及びLREEに富み、Y及びHREEに枯渇する特徴を持っていることも意味する。さらに,SIMSによる鉱物の分析の結果から,スラブ側に晶出した garnet は,出発物質に比べHREEに富んでいることも明らかとなった。これらの結果は,スラブ側のHREEはスラブ物質の脱水作用によって晶出する garnet へ分配され,そのために放出される流体相の科学組成が,LREEに富みHREEに枯渇したことを示す。これはすなわち,スラブから放出される流体相の化学組成は,流体とスラブ中の鉱物の間の分配係数に支配されていることを意味している。
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