この研究では流絞岩メルトと玄武岩メルトへの水の溶解度を溶融実験により決定し、特に噴火直前のマグマに相当する100MPa以下の圧力領域における珪酸塩メルトへの水の溶解度の圧力・温度依存性の基礎データを拡充することができた。実験の出発物質には無水の天然流紋岩ガラスと合成玄武岩ガラスを使用した。これらを脱イオン水とともにカプセルに封入し、内熱式ガス圧装置を用いて22〜100MPa、1000〜1200℃の条件で溶融させ、水と4〜69時間反応させた後、急冷・回収し、含水ガラスを作成した。これらの含水ガラス試料中の水を Yamashita et al.(1997)の方法で顕微赤外分光分析により定量し、それぞれの組成のメルトへの水の溶解度を決定した。出発物質を粉末状に調整すると、粘性の大きい流紋岩組成のメルトでは共存する水相(気泡)は分離せずにガラス試料中に高密度に残存してしまい、これを避けてガラス部分の溶存水を定量することは困難である。そのため今回新たな試みとして、出発物質を長さ2mm、直径2mm程度の柱状に整形し、水を拡散浸透・飽和させ、気泡の生成をふせいだ。ガラス部分の均質性からメルト-水間の平衡が確認された実験について結果を整理すると:(1)玄武岩メルトへの水の溶解度は、1200℃において、22MPaの1.5wt%から100MPaの3.0wt%まで圧力の上昇とともに増加する、(2)流紋岩メルトへの水の溶解度は、1200℃において、22MPaの1.4wt%から圧力の上昇とともに増加するが、100MPaまで昇圧しても2.3wt%にしか達しない。今回の結果は、水の溶解度の圧力依存性の程度が珪酸塩メルトの組成によって相当に変化することを示している。
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