研究概要 |
本研究は、化学反応における振動および回転量子状態の選択性の原因を、ab-initio分子軌道法、擬古典トラジェクトリー法および量子波束ダイナミックス法により理論的に明らかにすることを目的としている。さらに、これまでに実験が行われていない反応について、振動・回転分布を理論的に予測し、実験計画の指針となるモデルを構築することが本研究の最終目標である。「反応物の振動回転状態を指定したとき、生成物の振動回転はどのように分布するか」という問題は、化学反応動力学を理解する上で基本的かつ重要な問題である。そこで本研究では、1)イオン-分子系でのプロトン移動反応を中心に量子状態選択性に関する理論的研究を行った。研究対象として、アンモニアカチオンによる中性アンモニア分子からのプロトン引き抜き反応: ND_3(v, J)+NH_3-->NHD_3^++NH_2 を取り扱った。本研究では、この反応にポテンシャル面を電子相関を考慮したアブイニシオ法で求め、その面上でのダイナミクスを取り扱うことにより、反応の詳細なメカニズムを議論し、反応のモデルを提出した。[H, Tachikawa, Chem.Phys., 1996, 211, 305].特に、1) vlモードの励起により、反応断面積が増加する事、および、2)衝突エネルギーの増加により反応断面積が現象することを見いだした。さらに、本研究では、気相エネルギー移動反応への拡張も行った。研究対象は、オゾン層でのエネルギー移動反応で重要になる励起酸素原子から大気中の窒素分子へのエネルギー移動反応:O (1D)+N2->O (3P)+N2を取り扱った。その結果、励起酸素原子は、オゾンが分解した直後の励起酸素原子の状態ではエネルギー移動は起こさないが、数回の衝突の後、窒素分子へのエネルギー移動を起こす事を明らかにし、大気中での反応のモデルを提出した。[H, Tachikawa, et.al, J.Phys.Chem., 1997, 101 (in press)].
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