チオサルフェノラジカル(HS_2)の1.3〜1.5μmの波長領域に存在するA^2A′←X^2A″遷移の高分解能スペクトルを、近赤外ダイオードレーザー分光法により観測し、その解析から各電子状態、特に分光学的な情報の少ないA^2A′状態の精密な分子定数を決定し、分子構造に関する詳細な情報を得ることを目的として、幾つかの実験を行った。しかしながら、現在までのところチオサルフェノラジカルのものと思われるスペクトルの帰属には成功していない。 チオサルフェノラジカルの生成には、硫化水素ガスを不活性ガス中で放電する方法を用いた。不安定種の検出に適した放電変調法を採用し、1.3μm帯および1.5μm帯の外部共振器型ダイオードレーザーを光源に用いて、吸収スペクトルの測定を行った。しかしながら、放電により生ずる硫黄のセル内部への付着量が当初予測していた以上に多かったため、電極の汚れにより放電の不安定化や多重反射ミラー等の劣化に悩まされ、それらの洗浄に多くの時間を費やさざるをえなかった。また光源に用いた外部共振器型ダイオードレーザーの故障により、長期間に及ぶ実験の中断を余儀なくされたことも、予想外のトラブルであった。既に低分解能化学発光スペクトルの報告があり、各バンドのおおよその位置が分かっているにも関わらず、スペクトルの帰属ができなかったことは残念である。ただし、この実験を行うために施した種々の改良により、近赤外ダイオードレーザー分光計の感度および操作性の向上は、満足のいくものであった。現在、生成法と測定条件の検討を行う一方、吸収セルの改良を行って、A^2A′←X^2A″遷移の高分解能スペクトルの観測を再度試みる計画である。
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