研究概要 |
溶液中の溶質分子の光化学反応ダイナミクスの解明と、超強磁場効果の機構解明を目的として研究を行った。 本研究目的のため、パルス電磁石を用いた二重ビーム方式過渡吸収分光装置を製作、完成した。この装置は、強いパルスNd : YAGレーザー光により生成する過度種の光吸収量の時間変化をナノ〜マイクロ秒の領域で観測できる装置である。また、パルス電磁石を併用することにより約30テスラ(30T)の超強磁場領域までの過渡吸収の時間変化における磁場効果をも観測することができる。この装置を用いて266nmのレーザー光により引き起こされる、ベンゾフェノンの水素引き抜き反応の磁場効果をミセル(SDS,Brij35)水溶液中で観測した。得られた結果を、過渡種(ベンゾフェノンケチルラジカル)の寿命、散逸ラジカルの収量の両面から検討した。SDS水溶液中では、2Tまでは磁場の増大に伴って、ラジカルの寿命は長くなるが、2Tから29.6Tまでラジカルの寿命に変化は観測されなかった。一方、散逸ラジカルの収量は2Tまでは磁場の増加に伴って増加するが、2Tから10Tまでは変化せず、それ以上の磁場では磁場の増加とともにわずかに減少することが認められた。Brij35水溶液中では、寿命、収量とも3.36Tまでは磁場の増加とともに増加するが、3.36Tから25.7Tまでは磁場の増加に伴って両者とも減少し、25.7T以上では変化はほとんどなくなった。これらの結果を、理論的考察を加えて学術論文としてまとめ、Chemical Physics Letters誌に投稿、受理された。
|