ヨウ素分子を観測するために、まず、超流動ヘリウム中への効率の良い分子注入法を開発した。従来、金属サンプルに対して超流動ヘリウム中で分子を観測するには、あらかじめ試料を超流動ヘリウム中に注入、それをレーザー蒸発させることで分子を生成させていた。これは金属のサンプルには有効ではあるがそれ以外のサンプルに用いると、低温のため分子がクラスタリングしてしまう事が分かった。そこで、ナフタレンをテストサンプルとして用い、希釈した気体ガスの分子フロウ系による観測を開発、ヨウ素分子に適用した。 (1)X^1Σ^+(0_g)→D^3Π(O_u^+)励起:ヨウ素分子を基底状態から240nmの波長で励起したところ、280nmに発光が得られた。励起波長を240nm±5nm、または230nmに変化させても同様なスペクトルが得られる。これらのふるまい、波長、発光の線型から280nmの発光はD^3Π(0_u^+)→X^1Σ^+(0_g)と同定した。 (2)X^1Σ^+(0_g)→B^3Π(O_u^+)励起:B^3Π(O_u^+)状態からはどの波長で励起しても発光は見られなかった。希ガスマトリックス中、または液相中ではB→A、A'への緩和が早く、発光がほとんど見られない事が知られている。液体ヘリウム中でもAまたはA'への緩和が早い事が考えられる。 (3)230nm励起の際は605nmに極大を持つ反発型の発光が、240nm励起の時は550nmに極大を持つ反発型の発光が得られた。これらは中間状態とイオン対状態の間に存在する反発型のポテンシャルへの発光と思われる。
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