カルボカチオンによる多段階酸化還元系の構築ならびに動的配座異性機構の解明を踏まえ、目的のカルボカチオン類に関する超安定化を試みた。安定化ユニットには炭化水素化合物であるにも関わらず分極効果が相当程度に大きいアズレン環を基本ユニットとした。単に安定化に寄与するアズレン環数を増すのみでは、カルボカチオンが効率よく安定化されない傾向を既に見い出しており、本研究では、アズレン環を用いたカルボカチオン類の安定化効果について、アズレン環上の置換基の検討およびアズレン環に代替する安定化基の検討を合わせ、系統立てたカルボカチオン類の超安定化に関する検討を行った。アズレン環上の置換基は、立体的かつ電子的な安定化が期待できるt-ブチル基、電子的に高い安定化が期待できるジメチルアミニ基、ならびにメトキシ基を検討した。その結果、熱力学的安定性の尺度となるpK_R^+値が14を遥に越える超安定化というべきカルボカチオンの高い安定化に成功した。またアズレン環に代わり得るシステムとして、ジメチルアミノフェニル基、メトキシフェニル基、ならびに酸化還元的挙動に期待が持たれるフェロセニル基について検討し、カルボカチオンの高い安定化と共に両性的多段階酸化還元系の構築に成功した。さらに、電子供与体として安定カルバニオン類を用い導電性電荷移動錯体の生成に成功した。また、高い安定性を有するカルボカチオン類は、その高い安定性に由来した特異な配座異性現象を示す期待から、生成したカルボカチオン類の動的配座異性現象を温度可変NMRスペクトルを用いて詳細に検討を加えた。その結果、安定化カルボカチオン類におけるジメチルアミノフェニル基が、期待される平面構造を取らず、ピラミダル構造を有していることを明らかにすることが出来た。
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