研究概要 |
本研究は結晶の風解現象つまり結晶溶媒脱離現象は、結晶内での物質移動にほかならないことに着目し、非常に風解性の強い結晶を迅速X線回折装置を用いて構造解析することにより結晶溶媒脱離の初期過程を解明することを目的とする。本年度の研究ではまず、有機溶媒中から生成する3価のランタンとモリブデン酸との複合体結晶について検討を加えた。X線構造解析の結果、この系ではランタン1原子当たりモリブデンの8量体が2つ会合したものと、逆にモリブデンの8量体1つに対しランタンが2原子会合した2種類の錯体が存在することが明らかとなった。両錯体とも非常に速やかに結晶溶媒のアセトニトリルを放出し、結晶が崩壊するために通常の四軸型自動回折計を用いた数日から数週間単位のタイムスケールでの測定では構造決定は不可能であるが、迅速X線回折装置を用いた数時間程度での測定を行うことにより、結晶が崩壊する前に構造を決定した。この結果についてはActa Crystallographica誌Section A,Vol52,page C-319(1996)に発表した。 また、結晶水分子の放出を検討するために、デカバナジン酸イオンと種々の4級アンモニウムイオンとの結晶を合成した結果、テトラメチル、テトラエチルアンモニウム塩では結晶水を取り込んだ結晶が生成するが、テトラプロピル、テトラブチルアンモニウム塩では結晶水を取り込まない結晶が生成することがX線構造解析の結果から明らかとなった。前者2種の結晶について結晶中からの溶媒脱離現象について詳細に検討中である。
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