研究概要 |
本研究では、特異的なπ電子系、すなわちpπ(O^<2->)→dπ(Mo^<2+>)→pπ(NO^+)相互作用を持つ新規なオキソ-ニトロシルモリブデン(II)錯体を目指し、共存配位子に三脚状三座ホスフィン、1,1,1-tris(dimethylphosphinomethyl)-ethane(tdmme)を用いて合成研究を行った。5段階からなる合成経路を考察し、まず[Mo(CO)_3(tdmme)](1)を[Mo(CO)_6]から合成した。この錯体をニトロシル化して[Mo(NO)(CO)_2(tdmme)]PF_6(2)を、ついで臭素酸化により[MoBr_2(NO)(tdmme)]PF_6(3)を得ることに成功した。錯体(1),(2),(3)の構造はX線結晶構造解析、IRスペクトルなどを用いて帰属した。また、類似の三座アミンを共存配位子に含む錯体との比較から、tdmmeの強い電子供与性に由来する.構造および分光学的パラメータの変化を観測することができた。このことは、本研究で目指しているオキソ-ニトロシル錯体に、これまでに観測されていない新しい性質が現われることを期待させる結果であった。錯体(3)は水溶液中で不安定であり、加水分解反応により[Mo(OH)_2(NO)(tdmme)]PF_6(4)を生成すると考えられる。現在、この化合物(4)の脱プロトン化により目的錯体である[Mo(O)(OH)(NO)(tdmme)](5)の単離を行っている。また、合成過程においてニトロシル化の前に臭素酸化を行うことで、(1)から[MoBr(CO)_3-(tdmme)]BPh_4(6)および[MoBr_2(CO)_2(tdmme)](7)を単離することにより成功した。これらの錯体は7配位構造を持ち、しかもBr配位子が置換活性なため、ニトロシルに限らず様々な配位子との置換反応により興味深い錯体を生成すると期待される。現在、これら錯体(6),(7)の反応についても研究を進めている。
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