研究概要 |
CoS_4骨格を有する[Co(didentate-N,S)_3Co(tridentate)]型非対称二核錯体(didentate-N,S=2-アミノエタンチオール(aet)、L-システイン(L-cys)、D-ペニシラミン(D-pen);tridentate=ジエチレントリアミン(dien)、D-ペニシラミン、S-メチル-L-システイン(L-smc))を新規に合成した。反応は、N_2ガス雰囲気下で、化合物に応じてpHを5-8、反応時間を30-120分に変化させて行った。光学異性体(ジアステレオマ-を含む)の分離は、カラムクロマトグラフ法(イオン交換)を用いて行った。単離した化合物の構造は、^<13>C-NMR、UV-Vis、CD、IRスペクトルおよび元素分析の結果を基に帰属を行った。この合成過程では、反応物質(コバルト(III)錯体の種類)を変えることによって、ジアステレオマ-を様々な割合で合成することができた。この立体特異性には、水素結合の影響が大きく寄与していると考えられ、[CoCl(NH_3)_5]^<2+>との反応からはΔ異性体が、コバルト(II)イオンとの反応からはΛ異性体のみが選択的に得られた。水素結合の形成の有無は、^<13>C-NMR、IRスペクトルデータに顕著に現れることもわかった。L-smc錯体では、不斉硫黄原子の存在により、考えられる4種の異性体(Δ(R)、Δ(S)、Λ(R)、Λ(S))のうち、L-smc配位子のS-メチルプロトンとL-cys配位子との立体障害の小さいΔ(S)とΛ(S)異性体のみが得られるという立体特異性も認められた。さらに、用いたコバルト(III)錯体の配位原子の種類や配位様式の違いがジアステレオマ-の生成比に大きく影響しているとともに、酸化還元電位が-0.4Vよりマイナス側の錯体を用いた場合には高い割合で絶対配置の反転が起こることがわかった。これは、硫黄原子が架橋する際にこれらのコバルト(III)錯体から相対的に還元されやすい[Co(L-cys-N,S)_3]^<3->錯体の方へ電子が偏ることで[Co(L-cys-N,S)_3]^<3->錯体がラビールな状態になり、コバルトまわりで絶対配置の反転を伴った再配列が起こるためであると考えられた。 本研究の内容の一部は、第72春季年会で発表する。
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