研究概要 |
本研究では、Fe,V等の遷移金属酸化物を添加及び無添加のCaO(Na_2O)-SiO_2系ガラスを粉砕後、粒径を150〜300μmにそろえ、人の体液とほぼ等しい無機イオン濃度を有する擬似体液中に互いに接触しないよう浸漬し、1日〜7日間の所定の期間経過後、ガラス粒子を取り出し、表面水酸基生成状態を^<29>Si固体高分解能マジック角度回転法による核磁気共鳴(MAS-NMR)分光法により調べた。0.05mol%程度の遷移金属酸化物の添加によって、ガラス粒子表面に短期間で形成されたシリカゲル層の表面水酸基(シラノール基)量は同組成の板状ガラス試料表面と比較して多くなり、アパタイト形成も速くなった。微量の遷移金属酸化物の添加は、板状ガラス試料ではアパタイト核誘起に重要なシリカゲル層の形成を抑制するが、ガラス粒子に対しては、擬似体液中でのシリカゲル層の形成を抑制するよりも、形成したシリカゲル層の溶出を抑制する効果の方が大きいため、アパタイト核誘起能が高くなると考えられる。各期間浸漬後の擬似体液中のCaおよびP濃度を分析した結果、リン酸塩の析出量は表面シラノール基量とほぼ比例関係があることが分かった。^<31>PMAS-NMR分光法によってガラス表面に形成したリン酸塩の化学状態(重合度、電荷、Ca/P比)を解析した結果、擬似体液中に存在するH_2PO_4^-,HPO_4^<2->イオンではなく、吸着初期(アパタイト核形成段階)から兎の皮質骨中のアパタイトと同様のPO_4^<3->イオンの状態であった。NMR分光法により決定したQ^3(OH)/Q^4比に基づき、表面シリカゲル構造モデルを構築した。分子軌道計算によってガラスマトリックス構造中にQ^2(OH)_2構造単位を含む場合においてもQ^3(OH)がリン酸塩の吸着サイトであることが示唆された。今後の材料設計の指針として、CaO(Na_2O)-SiO_2系ガラスへの微量の遷移金属酸化物の添加は、生体模倣反応を利用したガラス粒子表面でのアパタイト合成に有利でり、アパタイト核を誘起するQ^3(OH)/Q^4比を有する化学的に安定なシリカゲル構造の材料表面との複合化が考えられる。
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