研究概要 |
金属イオンの相互分離を効率よく行うために選択性の高い配位子を設計することは、非常に重要な研究課題である。その際立体効果、すなわち配位子内および配位子間立体反発を制御し、イオンサイズ認識能を持たせることが重要である。本研究では上記のようなイオンサイズ認識能を有し、多くの誘導体の合成が期待できる配位子として、複素環多座配位子(H_2L)であるN,N′-bis(2-hydroxyphenylmethyl)-N,N′-bis(2-pyridylmethyl)-1,2-ethanediamine(H_2BBPEN)と、この配位子のフェニル基の5位に置換基として塩素を導入した(H_2ClBBPEN)を用いた。これらの配位子と、イオンサイズが連続的に変化する希土類金属イオン(Ln^<3+>)を用いてイオンサイズ認識能を溶媒抽出実験から検討した。その際、錯体の電荷を中性にするとともに配位子間立体反発を制御するため、β-ジケトンの一つであるジベンゾイルメタン(HA・Hdbm)を用いた混合配位子系で実験した。 H_2BBPEN及びその誘導体の酸解離定数(K_<a3>〜K_<a6>)およびCHCl_3と水相間の分配定数(P_<H2L>)は、H_2BBPENにおいてはlogP_<H2L>=5.12、pK_<a3>+pK_<a4>=9.43、pK_<a5>+pK_<a6>=24.35となり、同様にH_2ClBBPENではlogP_<H2L>=5.30、pK_<a3>+pK_<a4>=7.6、pK_<a5>+pK_<a6>=23.44であった。抽出実験を解析した結果、抽出錯体の組成はLnLAとわかり、イオン半径の大きな軽希土類間の選択性は大きいが、イオン半径の小さな重希土類間の選択性は小さいことがわかった。さらに、H_2ClBBPENにおいても同様の選択性を示した。これは、H_2BBPENとβ-ジケトンとの間の配位子間立体反発がイオン半径の減少とともに大きくなり、それに伴い生成定数βが減少したためである。また、H_2ClBBPENの5位の置換基は錯生成の際、錯体の構造に影響を与えないためH_2BBPENと同様の選択性を示した。
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