セイヨウミツバチの女王は複数の雄と交尾し、コロニー内には複数の父親由来のワーカーが共存している。ミツバチで女王のいない無王群をつくると、ワーカーは変成王台をつくり若いブルードを女王に育てようとする。変成王台は複数できても、一番早く羽化した女王が他の変性王台の女王候補を殺してしまう。本研究では、変成王台中の女王候補とそれに給餌するワーカーの遺伝的類縁関係を、DNAフィンガープリント法を用い解析し、縁者びいきの存在を明らかにすることを目的に実験を行った。 5つの無王群(コロニーA〜E)をつくり、各変成王台ごとに女王候補の幼虫に給餌していたワーカーを採集した。十分なサンプル数が得られた後、各変性王台の女王候補を採集した。それぞれの個体サンプルからDNAを抽出したあと、制限酵素HaeIIIでDNAを分解し、電気泳動後ナイロンメンブレンにトランスファーし、ツヤクシケアリから得られたDNA断片を^<32>Pで標識しハイブリダイズさせ、オートラジオグラフィーを行いDNAフィンガープリントを得た。 個体間のバンド共有率を解析したところ、ある変成王台の女王候補とそれに給餌していたワーカー間の血縁が他と比べ有意に近いという傾向は、一つのコロニーを除いてみられなかった。しかしながら、同じ変成王台の女王候補に給餌しているワーラーどうしは、他と比べ有意に血縁が近い傾向があった。以上のことから、ワーカーは自分とより血縁の近い女王ブルードを識別して選択的に世話をすることはできないが、血縁の近いワーカーどうしは同じ王台の世話をする可能性が示唆された。女王生産における縁者びいきの存在を支持する証拠は得られなかったが、ワーカー間の共同においては縁者びいきはありえるかもしれない。
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