研究概要 |
真骨魚類の中で最も特殊化したグループの1つであるモンガラカワハギ上科魚類の繁殖行動の進化を明らかにする研究の一環として,ナメモンガラXanthichthys mentoの繁殖行動を調査した.調査を行った場所は東京都八丈島底土の水深10〜20mの岩礁で,1996年6月から9月にかけて1回およそ60分の潜水観察を合計33回行った. ふだんナメモンガラは,岩礁や海面近くの中層で群がりを形成しているが,産卵前になると雄は海底になわばりを形成し,付近を通過する雌に求愛した.雌雄はそれぞれ砂底に水を吹きかけて砂をほぐすような動作を何カ所かで行い,やがて雌雄は腹部を合わせて2〜3秒のうちに放卵・放精を行った.産卵は午後に観察され,翌日の夕方まで親による卵保護が観察された.すなわち、雌はおよそ30×60cmの範囲に砂粒と混ざって散乱している卵に水を吹きかけたり(卵の世話),近づいてくる魚を追い払った(卵の防衛).また,雄も卵の防衛を行うことも観察された.産卵の翌日もひき続き卵保護行動が見られたが,その頻度は産卵当日と較べて非常に低く,雌は卵のある海底の中層にいる時間が長かった.しかし,産卵の翌々日には,卵および保護を行っていた親の姿は見られなかった.これは,水槽実験から判断すると,卵は産卵の翌日の夜に孵化するためと考えられる. 以上のように,今回の研究ではナメモンガラの基本的な繁殖行動を明らかにした.今後の研究で雌雄の繁殖頻度や卵保護の役割,婚姻形態等についてさらに詳しく調査を行い,その上で,他のモンガラカワハギ上科魚類と繁殖行動の比較を行う必要がある.
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