研究概要 |
人工飼育下のニホンウナギの精巣は、脊椎動物で唯一、精子形成をin vitro系で完全に再現することができる。この時、精子形成の開始は、生殖腺刺激ホルモン(GTH)-11-ketotestosterone-アクチビンBという経路で誘起される。今回、この精子形成の開始の分子機構を生殖細胞の分化という側面から明らかにするために、精子形成の開始に伴って生殖細胞で発現の変化する遺伝子の検索を試みた。GTH処理後、0、3日目(精原細胞が増殖し始める)の精巣組織より、poly(A)^+・RNAを調整し、mRNA differential display法を用いて、発現の促進される遺伝子と抑制される遺伝子を検索した結果、発現の促進されるもの、抑制される遺伝子断片をそれぞれ、2、3ケ得た。この中で、発現の促進されるRD3-3をプローブとして、ウナギ精巣cDNAライブラリーより完全長のORFを含むcDNAクローンを単離し,シークエンスした結果、この遺伝子は、DEAD-box protein familyに属することが明らかとなった。このクローン(eel DEAD-box gene 1:eDE-1)は、DEAD-box protein familyのmvh,RVLG,XVLG1とアミノ酸レベルで、約70%の相同性を示した。ノーザン解析は、この発現が、精巣、卵巣で認められたが、脳、肝臓、心臓、頭腎などでは、発現が認められないことを示した。また、eDE-1産物を特異的に認識する抗体を作製し、精子形成の開始に伴う、eDE-1のmRNA、蛋白の発現を調べた。共にその発現はGTHによる精子形成の開始の誘起後、著しく増大し、9日(精原細胞の増殖のピーク)で最大となった。また、in situ hybridization、免疫組織化学を行った結果、eDE-1の発現は、生殖細胞に限定すること、そして、幹細胞型精原細胞から第一次精母細胞のステージにかけてのみ、その局在がみられることが明らかとなった。
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