細胞中に存在するストレスファイバーは細胞の形態維持、収縮、接着に重要な役割を演じていると考えられている。ストレスファイバーの分布を注意深く観察すると、細胞の基底部を走るもののほかに、細胞の上部表層に沿って走るストレスファイバーも数多く存在し、これらがどのような役割を持っているのか、また表面細胞膜との関係がどのようになっているのかはまったく明らかではなかった。本研究ではストレスファイバーが数多く観察される培養ヒト線維芽細胞、ウシ血管内皮細胞を材料として細胞内のストレスファイバーの超微細形態を電子顕微鏡法を用いて解析を進め、その結果、細胞の上部表層に分布するストレスファイバーは表層の細胞膜と電子密度の高い物質を介して連結していることが分った。また、共焦点レーザー走査顕微鏡を用いて各種接着関連タンパク質(アクチン、ミオシン、α-アクチニン、ビンキュリン、テイリン、パキシリン、インテグリンファミリーなど)抗体による解析を進めた結果、細胞上部表層を走るストレスファイバーはこれらの接着関連タンパク質によって細胞膜に連結していることが明らかになった。これらの結果は、通常細胞の基底面に存在する接着斑(focal adhesion)様構造がストレスファイバーを伴って細胞の上部表層に存在することを意味している。実際のモルモット腹部大動脈血管内皮細胞においても同様に解析したところ、培養系細胞と同様に上部表層を走るストレスファーバーも、接着関連タンパク質を介して細胞膜に連結していることが分った。このことから接着タンパク質を中心としたストレスファイバーと細胞膜との連結構造が細胞の流れ刺激受容体として機能している可能性が強く示唆された。本研究によりさまざまな細胞での上部表層に分布するストレスファイバーの細胞膜との結合様式、また、血管内皮細胞における流れ受容体としての可能性が明らかになった。
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