研究概要 |
本研究では材料として極めて広範囲に渡って用いられているペロブスカイト酸化物において、規則的な酸素欠損に伴う様々な構造の基礎成長単位を調べることを目的とした。対象物質はいずれも酸素欠損ペロブスカイト構造を有するSrCuO_<2+x>およびSrCoO_<2+x>であり、各々だけを成長させた場合に加え両者の組み合わせによる超格子構造の成長も行った。前者では其の成長初期過程を原子間力顕微鏡で観察し、後者の場合は超格子として組み込まれる単位をn分子層として、このnを変化させることで、それぞれ成長単位がどのようなものであるかを調べた。結晶成長には分子線エピタキシ-法による原子層成長を適用し、酸化源として高純度オゾンガスを使用しその場成長させた。基板は格子整合のよいSrTiO_3(100)面を用いた。そこで、以下のような結果を得た。 1SrCuO_<2+x>は還元雰囲気下ではSrとCuO_2面が交互積層した無限層構造が安定となるが(c=3.4Å)、酸素分圧をあげるとSr層に過剰酸素が入りそれに伴い隣接するCuO_2面の間隔がおよそ0.2Å広がるO(c=3.6Å)。この結晶はどちらもc軸配向(CuO_2面||基板面)で成長する。そして成長単位は1ペロブスカイト分子層である。 2SrCo_<2+x>では結晶成長可能な酸素分圧範囲では常にSrCoO_<2.5>構造が安定となり、構造のバリエーションは見られなかった。SrCO_<2.5>はCoO_2面とCoOジグザグ鎖がSrO面を間にして交互に積層された構造であるが、この場合もCoO_2面と基板面が平行に成長した。構造からは基礎成長単位は2ペロブスカイト分子層と考えられる(CoO_2面-SrO面-CoOジグザグ鎖-SrO面)。この仮定を確かめるために、Ti面を選択的に表出させた平坦SrTiO_3基板(100)上に1ペロブスカイト分子層相当だけのSrとCoを供給し成長後の構造を原子間力顕微鏡で観察したところ、2ペロブスカイト分子層高さの島の存在が支配的であることが確認され、上記仮説が実証されたと考えた。 3SrCuO_<2+x>とSrCoO_<2.5>の超格子を作製し、ペロブスカイト分子層の数として1/1,2/2,4/4の3種類の組み合わせを試みた。当初は2/2や4/4は極めて乱れの少ない超格子構造が作製されのに対し、1/1の場合は超格子構造そのものが作製されず、固溶系と思われるSr(Cu_<0.5>Co_<0.5>)O_<2+x>結晶になった。これらもSrCoO_<2.5>の基礎成長単位はあくまで2ペロブスカイト分子層であることが示唆された。 以上の結果を補強すべく酸化条件を変えて1/1の作製を試み続けたところ、最近になって1/1の超格子構造が実際に作製され得ることが最近判明した。これに関しては理由等まだ不明であり、今後の課題として残されている。
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