研究概要 |
本補助金により購入した温度コントローラ,サイリスタと,トランス,自作のヒーターなどの部品を用いて,試料加熱・制御装置を製作し,現有の真空槽に組み込んだ。この装置により,室温から400℃〜600℃まで約60秒で昇温,この温度範囲で0.2℃の精度で温度制御,約30秒で設定温度から200℃以上降温できることが確認された。この場合,転位速度測定における昇降温時の転位の移動距離は最大でも全移動距離の10%程度と見積もられる。この移動距離の誤差は本補助金にて購入した温度履歴記録解析装置を用いて試料温度の変化を記録し解析することにより補正できる。次に,Si(100)基板上に,各10nmの厚さのSi_<0.8>Ge_<0.2>とSi_<0.6>Ge_<0.4>を交互に7周期成長させた超格子を作製した。この試料は成膜直後に既に多数のミスフィット転位が観察され,成膜中にかなり緩和していた。これは,基板の前処理が不十分であったため,成長初期から導入されていた転位であると考えられる。この試料をスクラッチを入れ新たな転位源を導入し,未緩和分の応力で転位速度測定を試みた。その結果,スクラッチより新たな転位の発生は見られたが,既に存在する転位によるエッチピット(ライン)との判別が難しく,速度の測定はできなかった。この試料の断面透過電子顕微鏡観察をおこなったところ,多数の転位が観察されたが,そのほとんどが全層を貫通する転位であった。従って,この超格子は,各層ではなく超格子全体として転位の掃き出し効果を持つと言える。また,未緩和の試料が作製されれば,超格子全体を貫く転位の運動速度の測定が可能であることが分かった。今後,未緩和の試料の作製が急務であるが,さらに各層厚が臨界膜厚以上の場合に転位形状がどうなるかを調べることが重要であることが分かった。
|