YBa_2Cu_3O_<7-y>(YBCO)等の高温超伝導体は大気に晒すと劣化するが、酸素雰囲気で加熱(アニール)することにより超伝導性を回復する。薄膜形状のYBCOに自己アニール機能、すなわち炉などの外部設備を必要とせずに昇温および酸素供給を行うことのできる機能を与えれば素子応用上有用であると考えた。我々の考案した自己アニールの原理はYBCO薄膜上を酸素透過膜(Ag)で被覆し、基板(イットリア安定化ジルコニア(YSZ)/Si)を通電加熱するというものである。今回自己アニールYBCO薄膜の実現に向けて、多層膜形成条件および大気中アニールによる性能回復の様子を調べた。 Si(100)単結晶基板へのYBCO/YSZ2層膜の製膜はパルスレーザー堆積法によりin-situで行い、製膜条件を探索した結果YBCO層を完全にc軸配向させることができた。この2層膜の上にAgを蒸着し試料の完成とした。 製作後50日間大気中に放置し劣化させた試料のアニール前後の超伝導特性を4端子法で測定し比較した。なおアニールは電気炉を用い450℃の大気中で30分間行った。アニールを施したことによってゼロ抵抗温度が81.8Kから84.3K、超伝導転移幅が2.8Kから1.8Kと明らかに膜質が向上した。すなわち1気圧の大気中においてもAg/YBCO系のアニールはYBCOの性能回復に効果的であることがわかった。 電極間の放電を避けるため低抵抗率のSi基板を用い、大気中での通電加熱実験を行ったが、電流が十分に流れず昇温できなかった。Si基板の裏側にAuパッドを蒸着形成するなど、オーミックコンタクトを実現する工法が必要であると考えられる。これは実験によって確認するには至らなかったが、大気中でのAg/YBCO/YSZ/Si通電加熱は十分可能性があり、今後ジョセフソン接合などの自己アニール化も期待できる。
|