研究概要 |
溶射皮膜におけるX線応力測定の測定精度および信頼性を確保する方法を明確にすることを目的とした.機械的負荷とX線的ひずみの関係の直線性におよぼす種々の原因を明らかにし,溶射皮膜におけるX線的弾性定数の測定精度向上法を検討した.溶射材は,モリブデンとし大気中プラズマ溶射によって軟鋼基板(100×15×4mm)の片面に厚さ200および400μmの皮膜を溶射した.溶射表面は溶射したままのものに加え,200番までのエメリ紙研磨をしたものも用いた.実験は全て室温大気中で行った. 1.AE計測による負荷時の微視き裂発生成長過程の評価 皮膜表面が引張となるひずみを4点曲げによって与え、アコースティックエミッション(AE)計測を行った.溶射皮膜では,極低ひずみ段階においてAE信号が発生し始め,あるひずみからAE信号が急増する傾向がある.これらは,それぞれ皮膜内における微視き裂の発生と微視き裂の成長,合体に対応している.また,研磨により表面の凹凸を除去した試験片では,溶射したままと比べてAE総数が減少し,また,AEの急増がより高い負荷ひずみで生じた. 2.負荷に対するX線的応力の変化 4点曲げによって溶射皮膜に段階的に引張負荷を与え,通常のX線応力測定法であるsin^2ψ法により各負荷段階におけるX線応力を測定した.溶射皮膜表面が溶射したままの試験片では,極低ひずみ段階から負荷ひずみとX線応力が対応しなくなる.一方,表面を研磨した場合,AE急増点までは負荷ひずみとX線応力が比例関係を示し,その後X線ひずみは増加しなかった. 3.溶射皮膜におけるX線的弾性定数の測定精度向上法の検討 溶射皮膜のX線的弾性定数の測定では,溶射皮膜表面の凹凸をできるだけ除去することと,微視き裂の急増点よりも低いひずみ範囲内で,負荷ひずみとX線応力の対応を検討することが重要であることを明らかにした.
|