研究概要 |
気中放電加工による微細加工に関する研究を主に行なった.尚,工具電極として外径φ0.3mm,内径φ0.1mmCu-W電極を用いた. ・貫通穴加工,溝加工:貫通穴加工や貫通溝加工が行えることが明らかとなった.1mm厚の超硬合金の貫通穴加工において,気中加工と通常の液中加工とで工具電極消耗率の比較を行なった.極性は工具電極消耗の点で有利な極性,すなわち,気中加工は工具電極が陰極である正極性,液中加工はその逆である逆極性とした.その結果,コンデンサを使用しない浮遊容量のみの加工や10000pFのコンデンサを使用した場合,気中加工の工具電極消耗率はそれぞれ3.3%,7.1%であるの対して,液中加工ではそれぞれ161%,181%と大きく,気中加工は低い工具電極消耗率で加工が行えることが明らかとなった.また,工作物に鋼(S45C)を用いた場合,加工穴直径0.5mmで板厚6mmまでの加工が行なえており,得られた工具電極消耗率は0.9%(コンデンサ:510pF)と非常に少ない値であった.一方,穴や溝が貫通した直後に極間隙に供給した気体流が放電極間隙に流れず極間外に抜けるため加工が不安定になる問題が生じたが,工作物の裏側に捨て板を密着させることでその問題は解決された. ・微細3次元形状創成加工:気中加工では極間隙に均一に気体流を流すことが肝要である.そこで,工具電極端面で常に均一に放電を生じさせる工具軌跡を用いて3次元形状創成加工を試みた.その結果,気中加工では工具電極消耗が少なく高精度な形状創成加工が行えることが分かった. ・供給気体の影響:鋼(S45C)の加工において,供給気体に鋼と化学反応が生じる酸素ガスを供給すれば加工速度が向上することが明らかとなった.よって,工作物や工具電極の材質の種類に応じて供給気体を適当に選べば低い工具電極消耗率と速い加工速度が得られる可能性があることが分かった. ・工具電極無消耗の要因:気中加工の工具電極無消耗の要因は熱伝導率の良好な工具電極加工面に工具電極より融点の高い工作物が加工によって付着するためと考えられる.そこで,工具電極加工面の工作物付着厚さの成長と工具電極母材の除去深さの時間変化を実験により測定した.尚,工具電極に銅,工作物に鋼を用いている.また,非定常熱伝導解析を用いて工作物付着が工具電極消耗に与える影響を調べた.測定結果から工具電極加工面は工作物の付着がない放電開始初期において除去されるが,その後の放電の繰返しにより工作物の付着が進み,加工開始後およそ1分で8μm程度の付着厚さに落ち着くことが分かった.また,熱伝導解析の結果から工作物付着が工具電極消耗に与える影響は大きく,工具電極加工面に形成される工作物の付着層が工具電極消耗を妨げる保護被膜の役割を果たしていることが明らかとなった. ・気中加工の問題点:加工速度が液中加工に比べて遅いことが最大の問題である.この理由は,気中加工では短絡が液中加工に比べ非常に多いためと思われるが,気中加工の極間隙は液中加工に比べ1/10程度しかなく,従来の液中加工に合わせて作られたサーボ系では周波数応答や送り分解能が不足していることが原因と考えられる.従って,サーボ系や送り機構を気中加工に適した方式に変更すれば短絡の発生を防ぐことができ,加工速度低下の問題点も解決できると考えられる.
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