研究概要 |
無応力状態の結晶格子表面の格子間隔は約0.2nmで安定しており,これは普遍的な長さ規準になりうる.また,走査型トンネル顕微鏡(STM)は,大気中で原子像を捉えることのできる顕微鏡である.そこで,結晶格子間隔をスケールとし,STMを検出器として組み合わせれば,サブnmオーダの分解能のリニアスケールが製作可能である.本研究ではこのリニアスケールの開発と格子間隔を基準としたNC加工機の可能性追求のために以下の事項を試みた. (1)熱ドリフト誤差の低減とSEM基準回析格子との比較測長 STMによる測長・位置決めにおいて熱ドリフトが最大の誤差要因である.そこで,極低熱膨張ガラスセラミクスを用いたSTMと恒温水循環恒温セルを試作した.セル内の温度変動を0.05℃以下とすることに成功し,この中に試作したSTMを設置したときの熱ドリフト速度は従来に比べて1/100に減少し,1nm/h以下となった.さらに,測定軸とラスター走査のFAST軸を一致させ,光波干渉計で校正されたSEM基準回析格子のピッチ測定をグラファイト結晶格子間隔を基に行った.光波干渉計での検定値(240nm)とグラファイト結晶格子間隔を基準とする測定値は1%以内の誤差で一致した.これらの試作・実験により結晶格子スケールにおいて熱変形誤差をほぼ排除できる見通しを得た. (2)STM探針の原子頂点への静止制御のための基礎検討 STM探針の高速ディザ-走査とロックイン検波法を用いて結晶格子像のXY軸の微分像を得,それを基に位置決めを行う方式の検討を行った.ロックイン検波法でのS/N比の向上を図り,良好な微分画像を得ることができ,位置決めのためのセンシングの見通しを得た.
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