研究概要 |
遠心血液ポンプを中心とした人工臓器の開発で,ポンプ内部流れで流れ場の強いせん断応力や他の要因による溶血,流れのよどみ等による血栓が問題となっており,本研究ではこのうち溶血特に流れ場中でのせん断応力と溶血に関して取り上げた. ところで前年度までの研究では,現在のk-ε乱流モデルの中ではく離・再付着流れ場をできるだけ正しく予測できる低レイノルズ型乱流モデルを用い,流れ場の乱流せん断応力ならびに分子粘性せん断応力による溶血の予測を数値流体力学的に行ったが,はく離流れの乱れの非等方性の影響,高濃度サスペンション流体の乱れへの影響,赤血球と壁面との直接的な接触の影響のため流れ場によっては溶血量の完全な予測には至っていなかった. そこで,本研究では壁面との直接的な接触の溶血に及ぼす影響を調べることがせん断応力による溶血評価法の拡張には必要と考え,マクロスコピックな数値流体力学的解析の第一段階として赤血球の壁面への接触問題を低濃度のサスペンション流れでの粒子の流体に対する密度(比重比)の粒子軌跡の接触問題としてとらえ,すでに遠心血液ポンプ内のせん断流れモデルとして検討しているオリフイス管内流れ場を用いて調べた.このとき粒子と流体の密度比を赤血球と血しょう水に合わせ,運動方程式にしたがって粒子を運動させたときの粒子径の影響およびオリフィス収縮部の長さの影響を検討した. この結果,通常の赤血球の大きさでは流跡線は流線とほぼ同じと考えてよいこと,収縮部の長さが長くなると粒子径の大きさによっては溶血が増大する可能性があることがわかった. したがって,遠心血液ポンプ内の溶血現象を数値流体力学的に予測する場合,流れ場の情報のみならず,壁面における赤血球の接触を正確に溶血評価法に取り込むことで,よりよい巨視的な溶血評価法が確立できることが示された.
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