本研究では、室温で動作する量子デバイスを実現するための基礎技術として、量子構造の障壁層として絶縁体を用いることを試みた。本研究で得られた新たな知見・成果は以下の通りである。 (1)分子線エピタキシ-選択成長法により様々な上部InAlAs障壁層厚(t_<WS>)を有するInP系InAlAs/InGaAs/InAlAs量子細線構造を形成し、これに化学気相堆積法により絶縁体を堆積した。表面から距離(t_<WS>)が10nm程度以下に減少すると、そのホトルミネセンス(PL)発光強度がt_<WS>に対して指数関数的に減少することを明らかにした。 (2)上記量子細線に、シリコン超薄膜界面制御層を上部InAlAs層と絶縁体の界面に挿入する新しい表面パッシベーション技術を適用したところ、PL発行強度をシリコン超薄膜界面制御層を持たない細線に対して100倍以上改善することに成功した。 (3)特に、InGaAs細線部に直接障壁層が接する場合、すなわち絶縁体が量子細線の障壁層となる構造は、シリコン超薄膜界面制御層を持たない構造と比較して実に400倍のPL発光強度を示した。 (4)PLの計算機シュミレーションにより、シリコン超薄膜界面制御層を有する上記の構造において絶縁体障壁層-量子細線界面の凖位密度が大幅に低減されていることが明らかとなった。 (5)さらに、シリコン超薄膜界面制御技術が微細加工技術により形成したInP系InAlAs/InGaAs/InAlAs量子細線構造の加工端面保護にも有効であることをPLおよびそのシミュレーションにより明らかにした。 すなわち、本研究で用いたシリコン超薄膜界面制御層技術により形成される良好な絶縁体-半導体界面は、極微細な量子構造にも適用可能であり、これによって化合物半導体量子構造の障壁層として強い閉じ込めが可能な絶縁体を用いることが可能となった。
|